SaaS業界はやめとけという声は、どこまで本当なのでしょうか。厚生労働省の統計では、SaaSを含む情報通信業の離職率は産業全体より低く、所定外労働時間は産業全体より長い水準です。
やめとけと言われる中身は、月額課金で売る会社である限り残る部分と、会社によって変わる部分に分かれます。前者が自分に合うかを決めてから、後者を入社前に公式の資料と面接で確かめれば、避ける会社を決められます。
この記事では、やめとけと言われる理由、ほかの業界と比べた離職率、これからの市場、向いていない人の特徴、ホワイトなSaaS企業の見分け方を順に解説します。
やめとけと言われる理由

やめとけと言われる理由の多くは、月額課金で売るSaaSの作りから来ています。freeeは、顧客が解約を言い出さない限り続く自動更新契約から毎月入る収益を、サブスクリプション売上と呼び、この売上が全体の90%以上を占めると開示しています。
数字の管理
SaaSの営業は、架電の数や商談の数のように工程ごとの数字で1日の動きが測られ、どの工程で止まったかがすぐに見えます。
SmartHRの募集要項では、追う値が職種ごとに分かれ、インサイドセールスなら架電と数値の管理、フィールドセールスなら商談と目標です。
契約が決まってからも追う値は消えず、カスタマーサクセスは継続率が評価の数字です。
解約率
売り切りの営業と違い、契約を取ったあとの解約も営業組織の数字から引かれます。freeeが開示する12ヶ月平均解約率は、やめた顧客の月額分が全体のどれだけかを月ごとに出して平均した値です。
ARRは、月末に継続課金している顧客の月額料金の合計を12倍した値で、契約が続く限り積み上がり、解約が出ればその月額分だけ減ります。組織の合計から引かれた分を、担当者ごとの評価に入れる会社があります。
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カスタマイズできない製品
顧客から機能の要望が出ても、営業はその場でできますとは答えられず、標準機能の範囲で業務を変えてもらう提案に組み直します。
富士キメラ総研の整理では、パッケージ型のソフトウェアの利点はカスタマイズやアドオン開発のしやすさです。SaaSの側では、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせるFit to Standardの考え方が広がっています。
freeeは、小売、飲食、運輸、製造、医療などの業種で求められる機能を足していく方針です。機能を入れる時期は製品側が決めるため、要望を受けた営業は、その機能がいつ入るかを答えられません。
覚えることの多さ
売っている製品の更新に加えて、顧客側の会計基準や税の制度まで追わないと、提案が組めません。
たとえばfreeeは直近の説明資料で、固定資産台帳の機能強化と、2026年3月末までの新リース会計基準への対応を予定として挙げていました。電子帳簿保存法も、令和5年度と令和7年度の税制改正で見直され、令和7年度には請求書等を帳簿に自動連携する仕組みに対応した制度が新設されました。
覚える範囲には、同じ分野で続けて出てくる似た製品との違いも含まれます。契約書の審査支援は、2019年以降にAIを使ったツールの発売が相次いだ分野です。比べられる場面に備えて、競合との違いを説明できるまで覚えることになります。
組織の立ち上げ期
人が急に増えている会社では、入って間もない人が社員の3分の1ほどを占める時期があり、その中で自分の数字を持ちます。
たとえば成長期のカオナビでは、正社員が304人から2年で484人へ、およそ1.6倍に増えました。直近の年度の採用は161人で、484人のおよそ3分の1です。
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ほかの業界と比べた離職率
使う統計は、厚生労働省の令和6年雇用動向調査と、毎月勤労統計の直近の年度確報の2つです。統計の情報通信業には通信・放送・受託開発も入り、SaaS企業はその一部として数えられています。
| 産業 | 離職率(2024年・パートを含む計) | 月間所定外労働時間(2025年度・一般労働者) |
|---|---|---|
| 産業計 | 14.2% | 13.2時間 |
| 鉱業,採石業,砂利採取業 | 9.1% | 12.3時間 |
| 建設業 | 10.0% | 13.3時間 |
| 製造業 | 9.6% | 14.7時間 |
| 電気・ガス・熱供給・水道業 | 8.8% | 17.0時間 |
| 情報通信業 | 10.2% | 16.6時間 |
| 運輸業,郵便業 | 10.2% | 24.3時間 |
| 卸売業,小売業 | 15.1% | 11.3時間 |
| 金融業,保険業 | 8.0% | 13.7時間 |
| 不動産業,物品賃貸業 | 13.5% | 14.4時間 |
| 学術研究,専門・技術サービス業 | 11.1% | 14.4時間 |
| 宿泊業,飲食サービス業 | 25.1% | 15.6時間 |
| 生活関連サービス業,娯楽業 | 19.0% | 10.5時間 |
| 教育,学習支援業 | 13.1% | 14.7時間 |
| 医療,福祉 | 13.8% | 6.6時間 |
| 複合サービス事業 | 7.8% | 8.3時間 |
| サービス業(他に分類されないもの) | 20.3% | 13.0時間 |
所定外労働時間は、早出・残業・臨時の呼出・休日出勤などの実労働時間を指します。表の時間はパートを除いた一般労働者の値です。情報通信業は、運輸業,郵便業と電気・ガス・熱供給・水道業に次ぐ3番目の長さです。
離職率のほうは、情報通信業より高い産業が8つあり、宿泊業,飲食サービス業が最も高くなっています。フルタイムの一般労働者に絞っても情報通信業は9.8%で、産業計の11.5%を下回ります。
情報通信業の入職率は11.2%で、離職率10.2%を上回り、辞める人より入る人のほうが多い状態です。
SaaS業界の将来性

SaaSの先行きは、市場の伸びと、顧客がどれだけ解約しているかの2つで確かめます。
市場規模の予測
富士キメラ総研は、企業向けソフトウェア53品目の国内市場を、SaaS/PaaSとパッケージの提供形態別に推計しています。
そのうちSaaS/PaaSの市場は、2029年度に3兆3,975億円、2024年度比73.0%増になる予測です。バックオフィス/コーポレートの領域は、SaaS/PaaSとパッケージを合わせた市場で前年度比13.1%増の見込みです。予実管理や購買管理、契約管理、電子契約、契約書審査への投資が増えています。
コラボレーションやマーケティングの領域はクラウド化が先に進み、その市場に占めるSaaS/PaaSの比率はすでに90%を超えていて、移行はほぼ終わっています。バックオフィスや基幹系のシステムは、まだ移行の途中にあります。
SaaSは死んだという声
人が操作するSaaSの画面は、AIが業務を自分で処理するなら要らなくなる、という声があります。
SaaS側の対応として、freeeは説明資料で、AIエージェントのfreee AI(β)やAI年末調整などを、早期にリリースする新機能として挙げています。富士キメラ総研も、AIアシスタントやAIエージェントへの対応に向けて、SaaS/PaaSが今後も市場をけん引するとみています。
顧客が離れているなら、解約率に出るはずです。freeeの法人の12ヶ月平均解約率は、0.5%(2025年6月末時点)にとどまり、顧客離れの動きは出ていません。個々の会社が伸びるかは、会社ごとの資料を見て判断します。
きつさは業界共通か会社次第か

解約が組織の数字から引かれることと、標準機能の範囲で売る会社が多いことは、SaaS企業を替えても残りやすい部分です。会社で変わる部分は、解約が個人の評価にどう入るか、数字を見る頻度、残業、組織の立ち上げ期です。公表されている離職率や働き方の条件にも差が出ます。
| 会社 | 公表している離職率 | 数え方の範囲 |
|---|---|---|
| サイボウズ | 4.32%(2025年) | 単体・無期雇用、海外拠点を除く |
| カオナビ | 17.2%(2025年度) | 正社員 |
| ユーザベース | 12.5%(2025年12月期) | 国内法人 |
数え方の範囲が3社でそろわないので、順位はつけません。サイボウズの値は前年の6.8%から下がり、カオナビは3年続けて16%台から17%台でほぼ同じ水準です。公表値には、数え方の違いも含めて4%台から17%台までの幅があります。同じ業界でも会社ごとに差があり、業界より企業選びのほうが大事という声もあります。
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働き方の条件も会社で違います。リモートワークの実施率は、ユーザベースの国内法人で99.7%、カオナビで78.7%です。
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SaaS業界に向いていない人

次の4つのどれかに当てはまる人は、会社を替えても残る部分が合わないため、業界ごと見直す選択肢があります。どれにも当てはまらなければ、次は会社ごとの違いを確かめます。
数字の振り返りが苦痛な人
営業の数字が工程ごとに振り返られること自体が会社を替えても残り、頻度だけ会社ごとに差があります。成果が出ない期間も振り返りが続き、評価ではなく改善の材料として読めない人には、その期間がそのまま重荷です。
たとえば、法人営業からSaaS企業のアライアンス営業に移り、1年半で契約0件だったという声もあります。アライアンス営業は協業先を探す仕事で、1件の成約まで早くても数ヶ月かかります。前職では目標を達成していたのに、移ってからは何もかもうまくいかなかったそうです。
顧客ごとに作り込みたい人
顧客ごとの業務に沿って作り込む仕事は、今もSaaSの外に多くあります。大規模企業向けERPでは、独自の業務フローに合わせたパッケージのカスタマイズ開発が多く、市場の構成比でみるとSaaS/PaaSは30%程度です。
作り込みで成果を出してきた営業は、標準機能に合わせて売り方を変える道と、パッケージを扱う会社を先に探す道があります。
売った後に関わりたくない人
受注で仕事を終えたい場合、SaaSの営業は合いません。契約した会社に使い続けてもらい、追加で買ってもらうところまでが、営業の計画に入っているからです。
実際に、freeeは従業員20〜1,000名の法人顧客について、クロスセルや利用ID数・取引の増加によって既存ユーザーのLTV(顧客が使い続ける間に払う金額の合計)を上げる方針を掲げています。法人ARPU(1社あたりの平均単価)は114,072円で、前年同期比+15.4%でした。
決まった手順で働きたい人
売る製品の中身が月単位で動き、覚えた手順はすぐ古くなります。
freeeは2024年10月にAIでシフトを作るfreee人事労務 AIシフト管理を出し、同じ年の12月には夜勤シフトの自動作成機能を加え、そのたびに顧客への説明や提案の手順を組み直すことになります。
ホワイトなSaaS企業の見分け方

会社ごとに変わる部分は、口コミではなく会社が自分で出している資料で確かめられます。決算説明資料や人的資本データのように、自分から開示している会社に限られる資料もありますが、求人票はどの会社のものでも読めます。
決算説明資料を読む
決算説明資料では、従業員数とARRの伸びの差と、解約率の数え方を注記に書いているかを見ます。
従業員の伸びがARRの伸びより小さければ、1人が担当する顧客や目標は増えていきます。freeeの場合、2025年6月期のARRは343億円で前年同期比+31.8%伸び、連結従業員数は期末の1,901人から翌期に2,100人前後へ増える見通しで、伸びはおよそ1割です。
期は1つずれますが、人よりARRが速く伸びている会社と読めます。営業の人数は開示されないため、全社の従業員とARRを3期分の資料で並べれば、営業1人の目標が年々重くなっているかを目安にできます。
解約率は、注記がなければ他社の数字と並べて比べられません。freeeは解約率の数え方を資料の注記に書いているため、どう数えた値かが分かります。
決算説明資料のない未上場のLayerXでも、求人票の事業概要にバクラク事業のサービス継続率99%以上とARRが載っています。
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人的資本データを見る
人的資本データの残業時間は、サイボウズが単体の無期雇用社員、ユーザベースが国内法人と、含まれる人の範囲が別です。値そのものより、数え方の範囲と出している項目を見ます。
残業は、サイボウズが単体の無期雇用社員で直近年度に月11.23時間、ユーザベースが国内法人の法定時間外で月9時間56分です。2社の値を1列に並べて比べることはできません。
勤続は、ユーザベースが継続勤務年数として3年8ヶ月、カオナビが平均勤続年数として2.6年を出していて、項目の呼び名から違います。
公開資料で分かる値は、全社か法人単位の平均までです。配属チームの残業、数字を振り返る頻度、解約が営業の評価にどう入るかは資料に出ないため、面接で聞く項目になります。解約率まで数字で追われる働き方の体感は、振り返りの頻度と評価への入り方で大きく変わります。

求人票の固定残業を見る
次の表の5社のうち、給与に含む固定残業の時間数に加えて実際の平均残業まで同じ求人票に載せている会社は、うるるだけです。固定残業と平均残業がどちらも約20時間で、前提と実態がほぼ重なります。表の数字は2026年10月時点の求人票によるもので、応募する時点の条件はその時点の募集で確かめるほかありません。
| 会社 | 給与に含む固定残業 | 同じ求人票にある関連の記載 |
|---|---|---|
| freee | 月45時間相当 | 想定年収510万円の例で月給の約4分の1が固定残業代 |
| ラクス | 月20時間分 | 非管理職の求人すべてに記載・超過分は別途支給 |
| 弁護士ドットコム | 月45時間分 | 賞与・昇給の記載がない |
| メドレー | 30時間分(固定労働制) | 裁量労働制の場合は49時間分 |
| うるる | 20時間分 | 全社員の平均残業 約20時間 |
固定残業の時間数は給与に織り込まれた残業の前提で、表の5社では20時間から45時間まで2倍以上開いていて、メドレーの裁量労働制の場合は49時間分です。平均残業が並んでいれば前提と実態の差を応募前に読め、並んでいなければ面接で聞く項目になります。
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よくある質問
SaaS営業はしんどいですか?
インサイドセールスは架電、フィールドセールスは商談、カスタマーサクセスは継続率と、職種ごとに追う数字が違います。
しんどさの中身は職種で変わり、どの職種でも数字で追われる点は共通です。Hacobuの求人票でも3職種は別々の募集で、応募の時点で職種を選ぶ形です。
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未経験でもSaaS業界に転職できますか?
2026年10月時点で、法人営業の経験があれば、SaaS業界が初めてでも応募できる求人があります。
セールスフォースの一部の営業求人は法人営業の経験を求めつつIT・非ITを問わず年数も指定せず、Hacobuのカスタマーサクセスも年数の指定がありません。
▶ セールスフォースの転職難易度は?ポジション別の応募条件と選考の流れを解説
SaaS業界とIT業界の違いは何ですか?
IT業界はソフトウェア・通信など情報技術に関わる産業の総称で、SaaSはその中でソフトウェアを月額の利用料で提供する事業の一形態です。
SaaSでないソフトウェアにはパッケージ型があり、市場調査ではSaaS/PaaSとパッケージに提供形態を分けて推計しています。
SaaS業界の経験はほかの業界でも通用しますか?
法人に売る経験は扱う製品が変わっても使えます。
SaaSの営業から違う製品を売る側に移り、成功したという声もあります。
まとめ
業界ごと避けるか、会社を選んで進むかは、月額課金で売る事業である限り残る条件が自分に合うかで決まります。
業界全体では辞める人の割合が産業計より低くても、各社が公表する離職率は同じ水準ではありません。決算説明資料があれば人の増え方とARRを、人的資本データがあれば残業と勤続年数を、求人票があれば固定残業が何時間分の前提かを、応募する前に確かめられます。
応募を考えている先が何を開示しているかを最初に見れば、どの資料から開くかがわかります。資料の比べ方を相談したいなら、転職エージェントを種類から選べます。


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